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ドボン

交通事故のあと、
入院生活を半年ほど送ることとなった。
車椅子からは降りれないけれど、
五体の中の四体は痛くもなんともないので、
安静になどできるはずがなかった。
朝から晩まで、
「ドボン」というトランプゲームに興じた。
タバコ銭を賭けた、
暇つぶしの真剣勝負にすっかり夢中になった。
ゲームの先生は角刈りの下半身麻痺のおじさんで、
噂ではものすごい美人の奥さんと、
ものすごい強面の子分が交互に見舞いに来るそうだ。
ということは、
そういうことだ。

ぼくはおじさんにドボンのコツを訊ねたことがある。
実際、おじさんはドボンのプロであった。
常に冷静で隙がなく、
判断を誤らなかった。
勝つときはごっそり勝ち、
負けるときは最小限に食い止めるのだ。
ゲームを長時間やればやるほど、
おじさんの儲けが増えていく。
おじさんひとりだけが、
他のゲームをしているようにぼくには見えた。
どこかべつのところを見ているのだ。

「全部覚えるんだ」
とおじさんは言った。
「1枚1枚誰が何を投げていったか、
全部覚えておくんだ。
そうしたら山に残っているカードも見当がつくし、
相手が何をしたがっているのかもわかるだろ」
そして常時同じ顔ぶれが集まるのだから、
「ある程度付き合ったら、
そいつがなにをやりたがるか、
ぴんとくるだろ。
いいカードが来てるのか、
手詰まりになっているのか、
態度に出る」
と言った。
ぼくはすっかり感心した。
「じゃあ今夜ぼくが切ったカードを全部覚えてるんですか?」
と訊ねた。
おじさんはにやりと笑って、
頷いた。
それは歴史を感じさせる獰猛な笑顔だった。
ぼくはその場で自分自身がミクロマンくらい小さくなったように感じた。
おじさんの方法を実践すると、
確かに勝率は上がった。

退院する日、
ぼくはおじさんの病室を訪ねた。
おじさんは治る見込みがないので、
退院の日が来ることはないのだ。
ぼくはお世話になった礼を述べ、
おじさんに似合う渋い色のハンカチを渡した。
きっとおじさんなら、
ぼくがお別れの日に自分の病室を訪れ、
挨拶してから帰るんじゃないかと見抜いていたはずだ。
なぜならぼくの手なんてすべてお見通しなのだから。
ところがおじさんは目を真っ赤にし、
声を震わせて、
「おれにくれるのか?」と訊いた。
ぼくが頷くと、
目を丸くしていた。


日吉


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