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かえるとクワガタ

嫌だと思った。
けれどぼくの口をついて出た言葉は
「いいよ」だった。
ぼくは他人事のように眺めていた。
みなみちゃんはぼくの虫かごの中に大きながまがえるを入れると、
ミヤマクワガタのつやつやと光る背中を摘み上げ、
「じゃあね」
といって帰っていった。
その姿をぼくはぼんやりと見送った。

ぼくはええかっこしいだった。
がまがえるとクワガタを取り換えることのできる凄い奴だと思われたい一心で、
みなみちゃんの持ちかけた取引に応じてみせたのだ。
その場では「すげえー」といわれていたが、
「すげえーバカなんじゃねえの」と心の底ではみんな思っていただろう。

その後落ち込んだ。
クワガタが惜しくて惜しくて立ち直れなくなったのだ。
するといとこのえーちゃんが声をかけてくれた。
「どうしたのさ?」
「かくかく・しかじか」
「よし、わかった。ついてこい」
というと、
えーちゃんはみなみちゃんの家に向かって歩き出した。
その後をついていった。
えーちゃんの手の中にはみなみちゃんの置いて行ったがまがえるが握られている。

玄関先から、
みなみちゃんとえーちゃんの言い争う声が聞こえる。
ぼくは道路から見守っていた。
するとドアが乱暴に開かれ、
えーちゃんが飛び出してくる。
手にミヤマクワガタを握っている。
「何すんのよ。あたしのよ。返しなさいよ」
と叫ぶみなみちゃんに向かって、
えーちゃんはもう片方の手に握っているがまがえるを、
びゅんと投げつけた。
がまがえるは宙を舞い、
みなみちゃんの顔に命中して、
砂利の上に落ちた。

かえるは腹を見せて、死んだ。
みなみちゃんは泣きだした。
えーちゃんは何事もなかったような涼しい顔で、去っていく。
ぼくは道路に立ち尽くしていた。

自分の手に戻ったクワガタに見惚れていた。
他のことなどどーでも良かった。
何が死に、
何が騒ごうが、
気にならなかった。

大損をせずにすんだことが凄く嬉しくて、
全身を幸福感で一杯にして、
掌のクワガタを見つめていた。




ひよし



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