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クワガタの採り方


小学三年の夏休みの宿題は、
休み中の体験を絵にして教室で発表するというものだった。

真っ白な画用紙を前にぼくは頭を抱えた。
休み中、
どこにも行かなかったので何も描くことがない。
しかし何か描かなくてはならない。

クワガタを採りに行きたかった。
それを絵にしてみんなに発表したかった。

いとこからクワガタの採り方について面白い話を聞いた。
樹を蹴飛ばしてクワガタを採ると言う。
なんて斬新で乱暴でかっこいい採り方なんだ。
興奮した。
樹を蹴ると上から木の実のようにクワガタが落ちてくると言う。
いっぺんに十匹も採れることもある。
頭の上にミヤマクワガタが着地したこともあると言う。

筆をとり、
天をつくような巨木と、
それを力いっぱいに蹴る自分、
それから、
ミヤマクワガタを頭に乗せて目を回しているいとこ、
空からばらばらと降り落ちてくる無数のクワガタの絵を描いた。
一晩かけて着色し、
学校に持っていった。

いとこの体験談の中に自分を主役にして登場させ、
みんなの前で話した。
ぼくは作り話が得意だったので、
みんなをすっかり騙すことが出来た。
樹を蹴る場面を実演すると笑いが起きた。
目を輝かせて、
ぼくのことを見つめるみんなの姿は、
いとこを見つめるいつかの自分だった。

ぼくは拍手喝さいを受け、
面白かったと先生から褒められ、
その絵は廊下の壁に飾られることとなった。

クラスには、
ぼくのように、
どこにも行かない子が何人かいた。
彼らは公園で遊んだ話や、
近所で体験したさして珍しくもない話を発表し、
まばらな拍手を受けた。
彼らの絵は教室の壁の隅のほうに貼られ、
話題に上ることはなかった。

「あんたの絵が廊下に飾られてるんだって」と母に言われ、
ぼくは驚いた。
いつのまにか母の耳に伝わっていた。
「見に行かないといけないね。どんな絵を描いたの?」

母に見られる前に絵を処分しなくてはならない。
嘘の体験を描いた事がみんなにばれてしまう。

翌朝、
誰よりも早く登校し、
廊下の壁から自分の絵を外した。
トイレの個室の中で画用紙を細かく千切り、
便器の中へ捨てて流した。
誰かに覗かれているような気がして、
何度も頭上を見上げた。
誰もいなかった。
便器を蹴った。
何度も蹴った。
蹴る度に、
いつかのみんなの笑い声が頭の中で響くようだった。

拍手喝さいを受けながら、
便器を見つめ、
唇を噛んだ。



ひよし

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