FC2ブログ

いびき

どうしてこんな状況で
ぐっすり眠れるの?と思ったことがある。

アパートでボヤ騒ぎが連続し、
犯人はぼくの部屋の隣りに住む夫婦ではないかと、
目星をつけられていた。
しかし決定的な証拠がなく、
逮捕をするまでに至らなかった。

結果的には、その妻が精神に病を抱えている人で、
放火犯であると、
警察から断定されたのだが、
ぼくが理解できないと感じたのは、
夫なのである。

妻は自分の部屋に火をつける。
だからいつも命からがら、
炎をくぐり、
やっとのことで逃げ出すのは、
彼女のそばにいる、
夫なのだ。

妻が死を望んで火をつけていたのか?
それとも放火騒ぎを起こしたいだけで、
そんなことをしたのか、
警察は教えてくれないので、
真実は分からないままだ。
けれど、
そのたびに、命を落としそうになったのは、
その部屋で、
グーグーといびきをかいて
布団の中でぐっすりと眠り込んでいる夫なのだ。

ボヤ騒ぎが連続し、
アパート中が不眠症になった。
みんなの寝静まった時分を狙いすましたように、
放火犯が火をつけるからだ。

ぼくも眠れない夜を過ごして、
ふらふらだった。
翌日の仕事のために夜が来たら布団に入る。
少しでも眠り、体を休ませる為である。
でも眠れなかった。
常に恐怖につきまとわれていたので、
精神が高ぶり、
目をつむっても、
眠ることなどできない。

布団の中で闇を睨んでいると、
壁一枚隔てた隣りの部屋から、
グーグーといびきが聞こえてくる。
夫のいびきだ。
それは床を揺るがすほどの、
大きな低音のいびきだった。
「おいおい、
寝てる場合じゃないだろ」
とぼくは思う。
「あんたの奥さんがそろそろ火をつける時間だぜ」

耳を澄ます。
いびきのその奥に、
衣擦れの音と、
マッチを擦る音が聞こえやしないかと――
夫のいびきは止まらない。
ますます大きくなる。

その夜も、火が出て、
火災報知器がけたたましく鳴り、
ぼくと妻はパジャマのまま、
アパートから外へと飛び出した。

夫は消防士に抱えられて、
救出された。
妻は泣き叫び、
興奮し、取り乱している。
夫はまたぐっすりと眠り込んでいたために、
たっぷりと煙を吸い込み、
朦朧としていた。

「おっさん、
あんたの奥さんが火をつけているんだぜ」
とぼくは思う。
どうしてぐっすり眠れるんだ?

次の日
布団に入ると
また夫のいびきが聞こえてくる。
地響きのような大きないびきが――



ひよし
スポンサーサイト



03 | 2011/04 | 05
Su Mo Tu We Th Fr Sa
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール

同人誌「昴の会」発行中。興味のある方はリンクから覗いてみてね。

Author:同人誌「昴の会」発行中。興味のある方はリンクから覗いてみてね。
FC2ブログへようこそ!

筆者
ほやほや
過去のつぶやき
最新コメント
FC2カウンター
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
ブログ
33723位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
その他
9271位
アクセスランキングを見る>>
リンク
           

FC2Blog Ranking

RSSリンクの表示
QRコード
QR