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美男子の木

美しい少年が
たくさん木にぶら下がっているのを
目にしたことがある。

高校三年の時に
たまたま
ぼくらの男子校と
どこかの女子高の遠足の日程が重なり
目的地で一緒になった。

クラスごとではなく
仲のよいグループ同士で行動していたので
いろんな輪ができていた

もてない男だけの輪
もてない女だけの輪
男女混合の輪

男女混合の輪では
記念撮影が始まった

ぼくと親友は木陰に寝転んで
ふて寝していた
すると
「どけよ」と怒鳴られた。
目を開けると
ジェームスディーンが顔を真っ赤にして
ぼくらのことを睨んでいる。
「邪魔だ。どけよ」
見ると
氷室京介
近藤真彦
田原俊彦
真田広之
吉川晃司
三上博史
マシュープロデリック
トムクルーズ
そうそうたるメンバーが
ずらりと勢ぞろいしている。
全員、
うちの高校のトップスターで、
近くの女子高にファンクラブがあるほどの人気者たちだ。
ぼくと親友がぼんやりと突っ立っていると
ジェームスディーンを先頭に
全員で目の前の木を昇り始めた。

ふだんはどちらかというと、
けだるい感じで、
木登りなんてしない連中なのに、
奇声をあげながら
ぐいぐい木を登っていく。

ぽかんとしていると
「分かった」と親友がつぶやいた。
「なにが」と訊くと
「あいつら女の子にもてたくてあんなことしてるんだわ」といった。
「まじで?」
「まじで」
「充分もててるじゃん」というと、
「ふだんはな。でもどういうわけか、いまは、全然女子が寄ってこないだろ」
「そういえば、そうだな」
「だからアピールが足りないと思ったんだろうな」
「なるほど」
ぼくらは木を見上げた。

一本の木に九人の美男子がぶら下がっている。
でもどういうわけか、
さっぱり女子が近寄ってこない。
「全然だめみたいだな」親友が首をひねる。
「あんなに美しいのにな」ぼくも傾げる。

しばらくすると、
親友が、
「まきの」
「ん?」
「おまえも登ってみたら」

沈黙。

「おまえこそ登れよ」
「おまえが行けよ」
「いや、おまえが行けよ」
とぼくらは互いを突きあいながら、
互いの容姿に安心し、
決して木に登らない生き物であることを
承知していた。

賢明である。


ひよし




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クワガタの採り方


小学三年の夏休みの宿題は、
休み中の体験を絵にして教室で発表するというものだった。

真っ白な画用紙を前にぼくは頭を抱えた。
休み中、
どこにも行かなかったので何も描くことがない。
しかし何か描かなくてはならない。

クワガタを採りに行きたかった。
それを絵にしてみんなに発表したかった。

いとこからクワガタの採り方について面白い話を聞いた。
樹を蹴飛ばしてクワガタを採ると言う。
なんて斬新で乱暴でかっこいい採り方なんだ。
興奮した。
樹を蹴ると上から木の実のようにクワガタが落ちてくると言う。
いっぺんに十匹も採れることもある。
頭の上にミヤマクワガタが着地したこともあると言う。

筆をとり、
天をつくような巨木と、
それを力いっぱいに蹴る自分、
それから、
ミヤマクワガタを頭に乗せて目を回しているいとこ、
空からばらばらと降り落ちてくる無数のクワガタの絵を描いた。
一晩かけて着色し、
学校に持っていった。

いとこの体験談の中に自分を主役にして登場させ、
みんなの前で話した。
ぼくは作り話が得意だったので、
みんなをすっかり騙すことが出来た。
樹を蹴る場面を実演すると笑いが起きた。
目を輝かせて、
ぼくのことを見つめるみんなの姿は、
いとこを見つめるいつかの自分だった。

ぼくは拍手喝さいを受け、
面白かったと先生から褒められ、
その絵は廊下の壁に飾られることとなった。

クラスには、
ぼくのように、
どこにも行かない子が何人かいた。
彼らは公園で遊んだ話や、
近所で体験したさして珍しくもない話を発表し、
まばらな拍手を受けた。
彼らの絵は教室の壁の隅のほうに貼られ、
話題に上ることはなかった。

「あんたの絵が廊下に飾られてるんだって」と母に言われ、
ぼくは驚いた。
いつのまにか母の耳に伝わっていた。
「見に行かないといけないね。どんな絵を描いたの?」

母に見られる前に絵を処分しなくてはならない。
嘘の体験を描いた事がみんなにばれてしまう。

翌朝、
誰よりも早く登校し、
廊下の壁から自分の絵を外した。
トイレの個室の中で画用紙を細かく千切り、
便器の中へ捨てて流した。
誰かに覗かれているような気がして、
何度も頭上を見上げた。
誰もいなかった。
便器を蹴った。
何度も蹴った。
蹴る度に、
いつかのみんなの笑い声が頭の中で響くようだった。

拍手喝さいを受けながら、
便器を見つめ、
唇を噛んだ。



ひよし

淡い

山田さんのびんたによって
「ちつ」の意味を学んだぼくは、
そのまま山田さんと淡い仲になり
その後
淡い季節のはかなさを味わうこととなる。

はじめに断言しておくが
ぼくは鼻くそは食べていない。

鼻をほじることはあるが、
食べたりしない。
もし食べるなら
誰もいないことを確かめて――
いやいや
食べるわけがない。
あんな不味いもの――
いやいや
本当に食べない。

授業中
突然後ろの席の女子から
「いやあ、まきの、鼻くそ食べた」
と指をさされた。
食べるわけがない。
授業中じゃないか。
食べるなら休み時間にトイレで――
いやいや
なんでそうなるの?
「きもーい」
何を言っているんだ?
食べてないし、
それにまだほじってもいないじゃないか。
ぼくが怪訝な目で見つめ返すと、
「いやあ、食べたあ」と確定済みで言う。
おいおい。
いい加減にしたまえ。
見間違うにも程がある。
いまのはMAXだぞ。
正気になれ。
そもそも
ぼくがあんな不味いものを
みんなが見ている前で
食べるわけないじゃないか。
鼻くそなんて、
誰もいないところでこっそり食べるものだ。

ぼくは相手にせず、
鼻で笑って済まそうとした。
困った奴だぜ、
なあ、山田さんと、同意を求めると、
山田さんはぼくから逃げるように
身をよじり、
「えーショック」と言ったのだ。
目を見ると
本当にショックの色が浮かんでいる。

山田さんは
両手で口を抑え
顔面蒼白だ。
「本当?」と目撃者の女子に確かめたりしている。

山田さんとその女子は同じ小学校出身で友人歴が長い
親しくなったとはいえ
所詮ぼくとは数ヶ月の仲である。
その後時間をかけて誤解をといたのだが、
ぼくと山田さんの間に流れていた
親密なものは
少しずつ希薄になり
席替えをもって消滅した。

淡いなあ。




ひよし

びんた

女の子に思い切り
びんたされたことがある。
中一の時である。

ある男子から「ちつ」と云われて、
「ちつ」を知らなかったぼくは、
「ちつ?」とその男子に訊き返したのだ。
すると
「おまえ、まじか?」みたいに笑われて、
ぼくがかまととぶっている、
ということにされた。
まあ、
たしかに女子の目を気にして、
しかも、
自意識過剰な人間だったので、
かまととぶる傾向があったことは否めない。
けれど本当に「ちつ」という言葉を初めて聞いたし、
「ちつ」から連想できるものといえば「土」
ぐらいしか思いつかないのである。
そう伝えると、その男子は「ふうん、じゃあ山田に訊けば?」
と、
なんだか挑発的に言うのだ。
その言い方にかちんときたぼくは、
「ちつ」についてのかまとと疑惑を晴らすべく、
隣りで他の女子と雑談している山田さんの肩を叩いた。
「なに?」
「ちつってなあに?」
「え?」
「ちつってなあに?」
びたーん
と音が響いた。
人間の頬を手の平で思い切り殴ると、
「びたーん」という音が鳴るのだ。

その一発で「ちつ」の意味するものが
なんとなく分かったし、
かまとと疑惑も晴れたようなので、
まあ、
一件落着といえば、
落着なんですけどね。



ひよし

いびき

どうしてこんな状況で
ぐっすり眠れるの?と思ったことがある。

アパートでボヤ騒ぎが連続し、
犯人はぼくの部屋の隣りに住む夫婦ではないかと、
目星をつけられていた。
しかし決定的な証拠がなく、
逮捕をするまでに至らなかった。

結果的には、その妻が精神に病を抱えている人で、
放火犯であると、
警察から断定されたのだが、
ぼくが理解できないと感じたのは、
夫なのである。

妻は自分の部屋に火をつける。
だからいつも命からがら、
炎をくぐり、
やっとのことで逃げ出すのは、
彼女のそばにいる、
夫なのだ。

妻が死を望んで火をつけていたのか?
それとも放火騒ぎを起こしたいだけで、
そんなことをしたのか、
警察は教えてくれないので、
真実は分からないままだ。
けれど、
そのたびに、命を落としそうになったのは、
その部屋で、
グーグーといびきをかいて
布団の中でぐっすりと眠り込んでいる夫なのだ。

ボヤ騒ぎが連続し、
アパート中が不眠症になった。
みんなの寝静まった時分を狙いすましたように、
放火犯が火をつけるからだ。

ぼくも眠れない夜を過ごして、
ふらふらだった。
翌日の仕事のために夜が来たら布団に入る。
少しでも眠り、体を休ませる為である。
でも眠れなかった。
常に恐怖につきまとわれていたので、
精神が高ぶり、
目をつむっても、
眠ることなどできない。

布団の中で闇を睨んでいると、
壁一枚隔てた隣りの部屋から、
グーグーといびきが聞こえてくる。
夫のいびきだ。
それは床を揺るがすほどの、
大きな低音のいびきだった。
「おいおい、
寝てる場合じゃないだろ」
とぼくは思う。
「あんたの奥さんがそろそろ火をつける時間だぜ」

耳を澄ます。
いびきのその奥に、
衣擦れの音と、
マッチを擦る音が聞こえやしないかと――
夫のいびきは止まらない。
ますます大きくなる。

その夜も、火が出て、
火災報知器がけたたましく鳴り、
ぼくと妻はパジャマのまま、
アパートから外へと飛び出した。

夫は消防士に抱えられて、
救出された。
妻は泣き叫び、
興奮し、取り乱している。
夫はまたぐっすりと眠り込んでいたために、
たっぷりと煙を吸い込み、
朦朧としていた。

「おっさん、
あんたの奥さんが火をつけているんだぜ」
とぼくは思う。
どうしてぐっすり眠れるんだ?

次の日
布団に入ると
また夫のいびきが聞こえてくる。
地響きのような大きないびきが――



ひよし

駄目だこりゃ

寿司屋で「駄目だこりゃ」と思ったことがある。
二十歳の頃、東京の神田のガードレール下で
寿司を食べた。

まず職人がくわえ煙草なのだ。
次元大介みたいにずっと煙草をくわえながら、
寿司を握っている。

カウンターにはもう一人、
顔のそっくりな男がいて、
どうやら双子の職人らしい。

そっちの方は鼻をほじるのだ。
どっちもあってはならないことだ。
でも二十歳で、
初めての東京だったから、
凄いところだな、と圧倒されてしまい、
何もいえなかった。

会計になり、
友人と二人で五、六貫食べただけで、
五千円も要求された。
明らかなぼったくりで、
そのあまりにも堂々としたぼったくりぶりに、
さらに圧倒されて、
完全にびびって、
おとなしく金を払って店を出た。

のれんをくぐり、
「駄目だこりゃ」
と思った。

いかりや長介のことなどこれっぽちも思わずに、
素で、
ぼくは
「駄目だこりゃ」
と頭を振り、
苦笑いを浮かべた。




ひよし
03 | 2011/04 | 05
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