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わが逃走

強い女の人が好きだった。

父を倒してくれるような女の人である。

もちろんそんなつもりで好きになったりしない。
素敵だな、
と憧れるところから入る。

けれど、
たいてい好きになる人は、
りりしく、
はっきりしていて、
かしこく、
背の高い人だった。

プロレスのタッグマッチのように、
その人と組めば、
父と母のペアを倒せるのではないか、
そう、
企んでいたような、
ふしがある。

自分のことなのに、
そこのところは不明瞭だ。
しかし、
そんな気がしてならない。

ずっと背伸びをしていたので、
なにかと苦しかった。
というより、
ひやひやしていた。
本格的に交際が始まれば、
ぼくがいかに情けない奴か、
ばれてしまうと思った。

だから相手を振り向かせると逃げる、
という手を打った。
面と向かうと不味い。

強くなりたかった。
けれどぼくの選んだ方法は、
逃げの一点ばりだ。

ひ弱なものから逃げて、
遠ざかって、
別の人間になろうとしたけれど、
足首にゴム紐がついていて、
逃げれば逃げるほど、
ゴムが張って、
元の地点に引き戻される、
という仕組みだ。

おしかいな、
と思いながら、
逃げを重ねていた。
本人は、
自己否定のつもりで、
それが逃げだとは気づいていない。
否定をすればするほど、
強くなれると信じていた。



日吉




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謝罪

いやな奴がいじめられている。
もっとやれと思う。
泣かせてしまえと思う。
泣かずに、
口答えなどしてくると、
本当にいやな奴だなと嬉しくなる。

本当にいやな奴であることが、
白日の下に晒されれば、
安心していじめられる。
悪い奴をいじめたい。
もっともっと。
とことん。
いやな奴をいじめることで、
すっきりしたいのだ。

だからもっといやな奴になってほしい。
もっとひどいことをしてほしい。
次の三点を守ってほしい。

謝るな。
反省するな。
正直になるな。

そうすれば、
謝る気がない、
反省が足りない、
嘘をつけ、
と、いじめることができる。

いじめるために、
いやな奴になってほしい。

いやな奴に向かって言う、
「謝れ」
ほど爽快なものはない。
遠慮がなく、
容赦のない、
マグマのような謝罪要求だ。

そして、
めらめらと燃え上がる怒りの炎の陰には、
謝ってほしかったけれど、
意気地がなく、
果たせなかった、
真のいやな奴の顔がちらちらと隠れている。


日吉












魚信(あたり)

3年ほど、
ひきこもっていた。
生きている実感がどんどん薄くなり、
その分、
離人感が強く働き、
部屋から出られなくなった。
外の世界が怖い。
恐怖の質が漠然としているので、
自分では明確な手を打てない。
そのままではどうにもならない時に、
なぜだか釣りを始めたのである。
外に出て生きているモノと交感したいのだが、
人間は怖くて無理である。
魚ならと思い、
近所の川まで自転車で出て、
釣り糸を垂れ始めた。

すると、
ぐぐっとものすごい力で釣り糸を引く。
川の中にこっちを引きずり込むような、
大きな力と、強い意思だ。
それが魚信だ。

魚信は命そのものだ。
命そのものが、
ぼくの手をぐいぐいと引っ張る。
その力強さに対抗するため、
ぼくの命もどくどくと暴れ回る。

やっとのことで釣り上げてみると、
魚はぼくの小指ほどしかない子供だった。
手のひらの中でぐったりとして、
すぐ死んだ。
今度はもう少し大きいのを釣ろうと思って、
川の中を移動した。
流れが強く、
水が冷たかった。
結局その日の釣果はそれだけだった。
ぐいぐいと引っ張られたことが嬉しくて、
ずっと興奮したまま、
家路についた。
家の中に入ると、
またいろんなものが遠ざかっていった。
けれど魚信の感触は残っていた。
それがぼくの生きている実感、
となった。


日吉

パチンコ屋

パチンコ屋に逃れるのが好きで、
よく逃れていた。
畑仕事から逃げてきたおばちゃん、
苦手な訪問先を後回しにしたサラリーマン、
家事と育児を放棄した主婦、
酒を忘れようと目を血走らせているアル中、
教育にさじを投げた数学教師、
職安行きをずるずる延ばしている無職、
などに混じって、
パチンコを打つのが、
好きだった。

彼らはだらしなく、
しまりがなく、
けじめがなかった。
そこに安らぎを感じていた。

パチンコ屋でずるずるとお金を使って、
大切な給料を一晩で無くしたり、
借金をしたり、
挙句、
補填にバイトしなくてはならなくなったり、
社会人にもなって親元に泣きついたり、
するのが、
なんだか性に合うのだ。

花火大会やクリスマスイブなど、
世間の華やかな時に過ごす、
パチンコ屋のヤニくさい空気は、
時間を止める魔力を持っている。

時間が止まっている限り、
すべて忘れられるのだ。

時間が動き始めたら、
また考えればいい。

そのころはオカルト打ちで、
まったく勝てなかったんだけれど、
楽しかったな。

だらしない人に会いたくなると、
パチンコ屋を覗いていた。

人生で一番いらいらしていた時期である。


日吉


道新と北日本

応募するために、
小説を二本続けて書いていたら、
八月が終わってしまった。
道新と、北日本だ。
どっちも去年落とされているので、
今年も送ってやった。
どうだ。
と、
まなじりを決してみても、
「べつに、どうも、ねえ」
なんてことばかりである。

それでもしつこく送り続けているのは、
何かを書き上げるたびに、
最高だと思ってしまうからである。
最高なんだから、
ほら、
褒めなさい、
と思ってしまうのだ。

気の弱さと、
自惚れの強さは、
共存できるらしくて、
ぼくの胸の奥に、
でんと、
四十年も巣食っている。
「そろそろかな」

「もう無理かな」
が、
仲良く茶を啜りながら、
キーボードを叩くぼくの指を眺めている。
九月の締め切りに向けて、
今夜からまた、
書くのだ。


日吉



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同人誌「昴の会」発行中。興味のある方はリンクから覗いてみてね。

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