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リーサルウェポン2

ホテルの有料チャネルの話なんだけれど、
20代前半に、
地方ロケに行く仕事をしていて、
年じゅう根室だ宗谷だ十勝だ石狩だと、
安いホテルを泊まり歩いていた時期がある。
もちろん宿泊費は会社持ちである。
但し、
部屋の冷蔵庫の中身や、
テレビの有料チャンネルの課金分については、
後日、自腹で精算する、という決まりだった。
忘れもしない稚内のホテルで、
深夜、
有料チャンネルを点けた。
プレビューというものがあって、
一定の時間、
課金されずに見ることができる。
チャンネルが5個ついていて、
エロ、
エロ、
エロ、
リーサルウェポン2
観光番組
というラインナップだった。
プレビューを上手く繋げば、
タダでエロが観られるのではないかと思いつき、
ティッシュを用意して、
ベッドに腰掛け、
いざ見始めると、
ベッドとテレビ台が離れすぎていて、
手を伸ばしても届かないことに気づいた。
どうしよう、こまったな、
肝心なときに真っ黒な画面じゃ、
哀しいしな、としばし考えて、
ベッドから足を伸ばしてみた。
すると、なんとか、かろうじて、足の指でチャンネルに触れることに気がついた。
よっしゃ、これでいこう。もうしゃあない。
1個目のエロを観る。
プレビューの時間は、
だいたい三十秒ぐらいのもので、
けっこう短い。
ちょっと見入っているとすぐ暗転してしまう。
あとエロが2個しか残っていないのに、
大丈夫かな、その気になってがんばらないと、無理だなと思って、
次のエロでゴールまで行こうと計画を変更、
2個目のエロを観る。
なんとかなりそうかな、間に合うかな、おお、ゴールが見えてきた、やった間に合った、
と思ったら、
快楽によって伸びたつま先がチャンネルに触れた。
リーサルウェポン2が流れた。
黒人刑事、
ダニー・グローヴァーの笑顔に向かってゴール、
という話なんです。


日吉

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釣りキチ三平

小四の夏に、
かねてからの野望のひとつであった、
リール竿を思い切り振る、
という機会を得た。

夏休みに、
親戚のキャンプに招待されたのである。
現地に着くと、
ゴルゴ13のように寡黙に道具を揃え、
さわがしいテント周りを離れて、
ひとりになれる岩場を探した。
誰にも邪魔されずに、
釣りを堪能したかったのだ。

岩場で準備を整える。
リールを竿にセットし、
糸に錘と針を結びつけ、
イソメというミミズの親戚みたいなものを二匹垂らした。

麦藁帽子を斜にかぶり、
親指の腹で鼻面をなぞる。
「へへっ」と声に出して笑ってみて、
身も心もすっかり釣りキチ三平と化す。
積丹の海面をひと睨みし、
やおら長竿を振りかぶり、
遠投するように、
左足を前に踏み込んでから、
「えいっ」と、
上半身をひねって投げた。

その瞬間、
ぼくの首を針が貫いた。

自分を釣ってしまったのだ。
ものすごい衝撃を受けて、
ぼくは倒れた。

視界の隅でちらちらと動くのは、
首筋を這うようにして移動しているイソメだった。
イソメの身体のところどころを赤く濡らしているのは、
首筋から滴るぼくの血だった。

どくどくと鼓動が強く、
激しく鳴り響いた。
不思議と痛みは感じなかった。
ただ怖かった。
声を出して叫んだけれど、
ぼくの助けを呼ぶ声は、
テントまで届かなかった。

助けて
助けて
と叫ぶ、
釣りキチ三平になれなかった小四の、
甲高い声は、
岩を砕く波に呑まれ、
誰の耳にも届かなかった。


日吉





山倉和博

ぼくの父には、
自分と同じ顔を見かけると、
「ああ、男前だなあ」
と褒める癖がある。

テレビなどでその手の顔を見つけると、
「見ろよ、
俳優にしてもいいくらいだな」
などとしきりに感心するのだが、
いつ見ても、
父に似ているだけなのである。
 
ぼくがその真実に気づいたのは、
小学生の時である。
父と一緒に野球中継を観ていると、
巨人の山倉選手がアップで映し出された。
すると父が吐息をもらしながら、
「それにしても山倉は、
男前だな」と、
つぶやいたのである。
ぼくはびっくりして、
「山倉って男前なの?」と父に訊いた。
父はうっとりしながら、
「あったりまえよ」と切り返し、
山倉が球界でダントツの男前であるという自説を述べた。
ぼくは男前の定義について、
その晩深く悩んだのである。
ぼくには山倉が男前だとは思えないからだ。
無理にそう思い込もうとしても、
脳みそがそれを受け付けないのだ。
結局、
色々とリサーチする内に、
それが父だけの見解であることが判明した。
父の頭の中には、
自分と同じ顔を無条件で、
「男前」
と認識する力が強く働いていて、
その正当性については、
一度も検証されたことがなく、
その必要性も本人は感じていない、
ということだった。

ちなみに、
父に訊くと、
山倉の次に男前のスポーツ選手は、
溝口英二らしい。

わかるかな、
わかんねえだろうな。


日吉


ドボン

交通事故のあと、
入院生活を半年ほど送ることとなった。
車椅子からは降りれないけれど、
五体の中の四体は痛くもなんともないので、
安静になどできるはずがなかった。
朝から晩まで、
「ドボン」というトランプゲームに興じた。
タバコ銭を賭けた、
暇つぶしの真剣勝負にすっかり夢中になった。
ゲームの先生は角刈りの下半身麻痺のおじさんで、
噂ではものすごい美人の奥さんと、
ものすごい強面の子分が交互に見舞いに来るそうだ。
ということは、
そういうことだ。

ぼくはおじさんにドボンのコツを訊ねたことがある。
実際、おじさんはドボンのプロであった。
常に冷静で隙がなく、
判断を誤らなかった。
勝つときはごっそり勝ち、
負けるときは最小限に食い止めるのだ。
ゲームを長時間やればやるほど、
おじさんの儲けが増えていく。
おじさんひとりだけが、
他のゲームをしているようにぼくには見えた。
どこかべつのところを見ているのだ。

「全部覚えるんだ」
とおじさんは言った。
「1枚1枚誰が何を投げていったか、
全部覚えておくんだ。
そうしたら山に残っているカードも見当がつくし、
相手が何をしたがっているのかもわかるだろ」
そして常時同じ顔ぶれが集まるのだから、
「ある程度付き合ったら、
そいつがなにをやりたがるか、
ぴんとくるだろ。
いいカードが来てるのか、
手詰まりになっているのか、
態度に出る」
と言った。
ぼくはすっかり感心した。
「じゃあ今夜ぼくが切ったカードを全部覚えてるんですか?」
と訊ねた。
おじさんはにやりと笑って、
頷いた。
それは歴史を感じさせる獰猛な笑顔だった。
ぼくはその場で自分自身がミクロマンくらい小さくなったように感じた。
おじさんの方法を実践すると、
確かに勝率は上がった。

退院する日、
ぼくはおじさんの病室を訪ねた。
おじさんは治る見込みがないので、
退院の日が来ることはないのだ。
ぼくはお世話になった礼を述べ、
おじさんに似合う渋い色のハンカチを渡した。
きっとおじさんなら、
ぼくがお別れの日に自分の病室を訪れ、
挨拶してから帰るんじゃないかと見抜いていたはずだ。
なぜならぼくの手なんてすべてお見通しなのだから。
ところがおじさんは目を真っ赤にし、
声を震わせて、
「おれにくれるのか?」と訊いた。
ぼくが頷くと、
目を丸くしていた。


日吉


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